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スタジオジブリとその建物から優しい建築を想像した。

2017/01/11

さすがジブリですね。

先日、小学4年の次女とその友達を連れて、「部分を見れば、全体が見える。」ジブリの立体建造物展に行ってきました。昨年2016年10月から2017年1月9日まで、熊本市立現代美術館にて3カ月間の開催、ギリギリ間に合いました。部分を見れば・・・なんか建築っぽいコピーが気になってましたが、その謎が解けました。チラシにあった紹介文です。

 

スタジオジブリは1985年の創立以来、多くのアニメーション作品を発表してきました。作品中にはドラマが起こる舞台として、沢山の「建造物」が登場します。本展覧会では出発点となった「風の谷のナウシカ」から、「思い出のマーニー」まで、作品に登場する建造物の、背景画や美術ボード、美術設定といった制作資料を公開。代表的な建造物を立体で表現し、その設計の源に触れます。

一般に、建物の持っている魅力とは何でしょうか。その一つは建物と人との接点にあります。人が住む建物は、人の暮らしに欠かせないものです。しかし近年に見られる建物は本来の魅力から離れ、人と建物に大きな距離があるように感じられます。それは私たちが、一番近くにいるのに見落としているものの一つであり、ふと気づくと忘れてしまいそうなものです。

一方、スタジオジブリがアニメーションという架空の世界の中で創造してきた、数多くの建造物たち。「油屋」を始め、「カルチェラタン」、「ハウルの動く城」、「万福寺」、「グーチョキパン店」、「草壁家」、「ラピュタ城」等々、毎作、その作品を特徴づける個性的な建造物がいくつもデザインされてきました。それらの魅力はアニメーションの世界だけに留まるものではなく、どれも印象的で、どこかに実在していそうな存在感のあるものばかりです。

映画というもの、とくにアニメーション映画は画面に映るすべての世界を描き出さなくてはなりません。しかし見方を換えれば、理想を映し出せる装置と言えます。この中で空想された建造物。しかし、ただの「空想」とは違います。現実の世界を注意深く観察した上で、登場人物の生活、時代などの想定、検証を十二分に経てデザインされたものであり、何より登場人物との関係性が建物としての魅力を高めています。それは私たちが生きる、現実世界でも同じことです。あらゆる文化、あらゆる環境に合わせて建つ建物の中で、あらゆる人が生活をしています。
本展覧会に展示される作品を入り口とし、人と密接な関係を持つ、建物の魅力が伝われば幸いです。

 

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紹介文の中にある次の一節「近年に見られる建物は本来の魅力から離れ、人と建物に大きな距離があるように感じられます。それは私たちが、一番近くにいるのに見落としているものの一つであり、ふと気づくと忘れてしまいそうなものです。」普段の住宅設計に取り組む中で、住まう人と家との距離感については、ものすごく意識しています。暮らしと家の関わりといった方がいいかもしれません。家だけでも、人だけでもない、そこに紡がれる暮らしが見えた時、心地よい建築が出現するのだと。

この紹介文を読んだ時、すごいなジブリとあらためて感心しました。それともう一つ、建築家で建築史家である藤森照信さんがこの企画展に参加されていたこと。おそらく、この紹介文も藤森さんが書かれたものなのではと思います。そうなると、さらにジブリに登場する建物たちに親近感を覚えます。藤森さんの代表作が、こちらのまとめサイト幾つか紹介されています。ここ熊本には、2001年に建築学会賞を受賞した「熊本県立農業大学校学生寮」があります。以前見学に行った時の写真です。

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外壁は板張りで一枚一枚に板金で水切りが挿入してあります、板の劣化を極力抑えようというディテール。角が曲がってるように見えますが、ぶつかった時に怪我をしないようにという配慮。室内の柱や梁にも曲がりくねった自然木が多用してあり、壁と天井の仕上げもどろ塗りでどこまでが壁でどこからが天井かあやふやな、すごく包まれた感がある仕上げになってます。

どの建物もジブリ作品に登場してもおかしくないものばかり。土着的であり、優しさを感じるものばかりです。ジブリ作品の優しさって、こんなところからにじみ出てるのかもしれませんね。ジブリってすごい。

三鷹の森ジブリ美術館建設

会場内に展示してあるパネルには幾つか面白いことが書かれていました。その一つが、三鷹の森ジブリ館を建築する際のエピソード。宮崎駿さんの独創的な設計(プランニング)に周りが右往左往した顛末。計画をするにあたって、まずは駐車場の土間仕上げから話し始めたこと。予算そっちのけで、どんどんアイデアをぶっこんでいくこと。関係者は苦労したようです。最終的には、規模も予算も落ち着き、今建っている施設ができたようですが、宮崎駿さんの設計プロセスには驚きました。

宮崎駿の設計プロセス、身の回り3メートルから考える。

このコメント見た時身震いしました。全く同じようなイメージで、僕自身の住宅設計も進んでいくからです。通常は、ゾーニング(ちょうどhomifyにて記事にしてありました)と言うプロセスを踏んで、部分へと流れていきます。しかし、その家族の暮らしを想像した時、全体よりも先に手の届く目の届く範囲をイメージするのです。手を伸ばせばそこに何かがあり、振り向けば窓の向こうに森が見えたり、足元には愛犬が寝そべっていたり。そんな、身の回りを想像し、その先に全体が繋がっていく。そんな感じで設計しています。

また、こんなことも紹介されていました。日本の古い建築を見て回ったある外国人の方が「日本人は、よくこんな複雑な設計ができるな」と感心していたらしいのです。西洋では設計という行為がしっかりしていて、例えば古い建物の外観を見てもシンメトリーのものがほとんど。これは、先に全体を考えて設計が始まるからだというのです。なるほどなと合点がいきます。では、日本はどうだったかと。日本ではまず柱をどこに立てて、それらをつなぐ梁が架けられ、そこに四角いマスができていく。そしてそこに用途が生まれ、次ノ間へと広がっていく。全体を見越したいわゆる設計という行為がなかったというのです。

これも、自身の設計プロセスにピッタリ当てはまります。91cmのグリッドを基本に次々に空間をつなげていきます。この91cmという寸法も体感上の心地よさがあり、僕は大好きです。メーターモジュールという100cmのグリッドを基本にした住宅もありますが、あまり好きになれないです。91cmの倍、182cmと言うのがいわゆる1間(いっけん)と呼ばれ、この長さは人が両手を広げた時より”少しだけ”広いくらいです。この”少しだけ”というのが安らぎや、心地よさを与えているのではと思うのです。ついでに、この91cmという基本寸法について。この寸法は畳から決まったという話があります。畳の原料であるい草の背丈から作れる畳の横幅が決まります、その標準的な長さをもとに、柱の中心から中心までの長さがが91cmだったのだと。諸説あるようですが、僕はこの説が好きです。

やっぱり優しい建築を目指そう

今回のジブリ展、一緒に行った小学4年生の次女たちは楽しんだんだろうか?小学生にはパネルに書いてある文字なんて、読むのもめんどくさかったはずだし。そんな彼女たちとはやっぱり途中で逸れ、僕が会場を出たのは彼女たちから遅れること30分以上経ってからという結果に。大人から子供まで楽しめるものでしたが、僕にとってはやっぱり優しい建築を目指そう!とあらためて思った、そんな展覧会になりました。次回開催がどこかはわかりませんでしたが、お近くに来た際は是非足を運んでみてください。ジブリファンも、建築オタクも、心温かくなる展示会ですよ。

 

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